極上文学『ドグラ・マグラ』

しかし今回の廣瀬くんは本当にすごい!この1年ちょっとの間にどれだけの経験を積んだんだろう?ちょっと何ランクもレベルがちがう。

ヨシP on Twitter: "今回特筆すべきは、廣瀬大介です。前回出演してくれた夢十夜のときは本当に苦労してました。悩んで悩んで悩んで…。しかし今回の廣瀬くんは本当にすごい!この1年ちょっとの間にどれだけの経験を積んだんだろう? ちょっと何ランクもレベルがちがう。きっと今日ご覧になったお客様なら分かるはず。"

佇まいが特別だな。

と、また思いました。
そこにいるだけで出る、存在感の凄み、元々持ってたのがさらに増してる。
贔屓目でしょうか…。実際贔屓ですが…笑

ドグラマグラという作品にはゴシックなイメージがあったので、毒々しい演技を予想していたのですが、違うものが出てきました。
若林教授の言うことも正木博士の言うことも全部信じて、モヨ子を心から可哀想に思って、自分の運命を真っ直ぐに悲しむ、子供みたいな呉一郎で、そうくるか~!と思いました。
正木博士が父親で犯人ってわかって呉一郎が博士を責めるところ、原作を読んだときは半狂乱で責め立ててるイメージでしたが、静かに泣きながら責める呉一郎にオオオォ…ってなりました。

「あんまり非道いじゃありませんか」

という台詞が本当に切なかったですね。
そう言われたあとの、トムさんの正木博士の表情もすごく印象に残りました。
トムさんの正木博士が私は好きでした…。原作とは身長のイメージなど違うかもしれませんが、派手な仕草と表情、良かったです。
そして舞台版ではあるかな~どうかな~と思っていた外道祭文!トムさんの外道祭文、なかなかアツい案件でした!

開演前の演出は

具現師(いわゆるアンサンブルの、極上文学シリーズでの呼称です)が会場内を夢遊のように歩き回るものでした。
雰囲気だけ受け止めて、ふーんと思っていたのですが、開演を知らせる鐘の音が鳴ると、「あっ、客席は解放治療場だったんだ。この鐘は、お午の号令だろうか、就寝だろうか、それとも…」と閃き、一気に作品の中に入っていく感覚でした。

マver. は転結起承の順番で、観にくさはもちろんあったのですが、観にくいのが面白いと思えました。
観にくい以上に演じにくかったのではないかと思いますが、気持ちの流れを作りにくいからこそ、持ち前の爆発力で見せていたと思います。あの振り幅、本当に魅力的です。

ドver. は起承転結の順番で、転結の演技が好きだったので、転結に向かって盛り上がるドver. が好きでした。
仰向けに倒れているところから青い顔で起き上がってくるところなど文脈を抜きにしてもただただ美しく、
顔を本で隠す姿もその仕草の意味するところを想像させて美しく、
わーっと喋ってるうちにトランスっぽくなってきて、両足で立ったまますこし揺れながら、不随意に見えるような足踏みをしている、そのリズムと口から出る言葉のメロディーの調和も美しく、
顔が綺麗でスタイルが良い事とはまた違う美しさをたくさん見せてもらいました。

ウロボロス構成という名前で

一見堂々巡りを強調した演出のようですが、転(だったかどうか…。記憶が曖昧です。放送を待ちます。)の中に結の最後に、呉一郎が顔を赤く塗られるシーンがあります。
正木博士役の方モヨ子役の方(お面をつけて呉青秀の着物を羽織っているので、先祖の象徴、心理遺伝の象徴なのではないか)が「これがお前の人生なんだよ」と言いながら絵筆赤い液体のついた手で呉一郎の顔をなぞります。
その顔に残った赤い印が、堂々巡りの中でメルクマールになってます。
例えば、同じ起のシーンでも、起承転結のドver. では顔に印はない。転結起承のマver. ではある。
あの印の意味するところは何だろうと考えています。あの印を付けられたとき呉一郎は産まれたのかな、とか…。
同じシーンでも顔に印がないのはまだ産まれていない、心理遺伝体験中の呉一郎。印があるのは既に産まれた呉一郎。
先に「子供のような呉一郎」と書きましたが、胎児の見ている夢という部分を強調して役作りをされたのでしょうか。これは憶測に過ぎませんが…。
印づけされるとき、客席には背を向けているので、どんな表情をしているのかすごく気になりました。
絵筆赤い液体のついた手でなぞられて顔を赤く汚すときの表情…。
*1

どのバージョンでもラストは

暗転→「ぽーん、ぽーん、ぽーん、ぽーん」(時計の音?)という呉一郎の声→明転
で終わるようですが、6/29の公演では明転後もしばらく固まったまま、ようやく口を閉じて前を向いてもしばらくぼうっとしてたのも印象的でした。転結の演技が本当に凄まじいのでさもありなんという感じです。

冒頭に引用させていただいた言葉どおり

今の実力、貫禄を見せてくれてすっごく良かったです。
しかも揚力も感じて、もし来年同じ演目をやっても違う風になるんだろうな、これは今しか見られないんだろうな、と思う迫力でした。
しかし出番が多くて、今回とくに「主役!」という触れ込みはなかったですが、主役っていいですね…。

*1:7/6追記:ニコニコでの放送を確認して訂正しました。結構な思い違いをしていたようです…。しかし、モヨ子役の方は呉一郎の母・千代子役も兼ねており、このシーンのあとは暗転して赤ん坊の泣き声が響くので、「このシーンは呉一郎の誕生を表している」というのはやっぱりそうかと思います。本棚が揺れて中の本が飛び散るのは、陣痛とそれによって心理遺伝がなりを潜めることの比喩でしょうか。