素人が歌舞伎に一年ロマンス

前回の記事にも書きましたが2017年、何故か急に歌舞伎にハマり、一年間毎月歌舞伎座に行っていました。驚くことがたくさんあったので、思うままに書きます。そんなことも知らなかったの?と思われることもあるかもしれませんが、素人だもの…。素人のいましか書けないことを書きます。

 

座席指定でチケットが買える

「よっしゃ歌舞伎見るぞ!歌舞伎 チケットで検索!」してたどり着いたサイト、『チケットweb松竹』で、TOHOシネマズみたいな座席指定画面が出てきたときの驚き!ありがたさしかない!

このサイト、画面構成の見やすさにも感動しました。想定年齢が上めだからかな…。

 

(古典は)ネタバレの概念がない

考えの違いでファンの間に不和を生みがちなネタバレですが、古典作品はもはやネタバレという概念がない。「来月は○○(題名)がかかる*1のか~」と思って○○で検索すると、ネタバレしてますのクッションもなくストーリーと見所の書いてあるページがたくさん出てくる。これが私にはすごい楽、ストレスフリーでした。テニミュももうしばらく続いたらこの域に達するのかな。比嘉戦のネタバレをしまーす!青学が勝つよー!

一度、座席指定のチケットを買おうと座席図を開いたら花道が2本に増えてて、「??????とりあえず仁左衛門様の立ち位置どっち?????」となったけれども、「作品名 役名 花道2本」で検索したらどっちの花道から登場するか1分で分かり無事立ち位置のチケットを買えたこともありました。ストレスがフリーなんだよ…あのときの仁左衛門様の流し目すごかったな…

お名前が出たので。片岡仁左衛門様は今年74歳になられる声がいい・顔がいい・歩く姿はギリシャ彫刻、な人間国宝様です。

 

歌舞伎座、休演日がない

公演は、毎月の月初から20日間ほど。毎日昼の部と夜の部(月によっては1部、2部、3部)があって、休演日はありません。

…関係者みんなスーパーマンなのか?本当にすごいと思います。この日に行きたいって日に芝居がかかってるのはとても助かる。

 

歌舞伎座、幕見席(当日券)列のホスピタリティがすごい

歌舞伎座の4階席はすべて当日券用なので、人気公演だろうが初日・楽だろうが、当日券は必ず出ます。歌舞伎の公演は、「昼の部にAとBとCの3幕、夜の部にDとEとFの3幕」という構成が多い。このA~Fは、総合テーマがあったりもするけれど、お互いに関連のない全く別作品で、出演者もそれぞれです。この部単位でチケットを買うと席種により4000円~22000円程度ですが、幕単位の当日券は1000~2000円程度です。通うとしたら幕見が使いやすいでしょう。

いいですか、歌舞伎座の幕見席(当日券)列は、まず、座れます。時代劇のお茶屋みたいな、赤い布のかかった縁台に座って待てます。屋根もあります。途中でコーヒー買って行けば実質晴海通り沿いのオープンカフェですわ…

そして列スタッフさんのクオリティがすごいです。五ツ星ホテルのホテルマンみたい。五ツ星ホテル行ったことないけど。スタッフといえば襟首掴まれて剥がされたり、ここに並ぶなって追い払われたりすることしかなかったタイプのおたくは、この人間扱いに泣いてしまうと思います。

 

筋書(パンフレット)インタビューの文体

月ごとに筋書と呼ばれるパンフレットが発売され、幹部俳優さんはインタビューが載るのですが、全員口調、文体が同じ。「大きなお役をいただきました。○○のお兄様に教えていただき、しっかりと努めたいと思います。」インタビューも型が決まってるのだろうか…。

 

年齢関係なしキャスティング

6、70代の役者さんが、真っ赤な着物のお姫様や、立身出世する若者の役をやるのが珍しくない。もちろん誰でも若い役を出来るわけではなく、声や顔立ちにハリがある人でないといけませんが、それにしてもカルチャーショックだった。

だから夫婦を父子で演じるとか、祖父と孫で演じるとか、普通にある。

逆に若い人が年寄りの役をやることはあまりないようです。

 

俳優の奥様が劇場ロビーに立っていらして来場客にご挨拶してくださる

ハイパーカルチャーショック

 

建物への文句

これはシンプルに文句なのですが、劇場に求めるものの第一が客席からの視界、第二が座席でのパーソナルスペース確保、なので歌舞伎座はかなりしんどいです。あと「 2階と3階の西袖から花道はご覧いただけません。予めご了承ください。」じゃなくてなんで見えるように作らなかった?

まさかの地下一階が全部トイレなので、劇場に求めるものにおいてトイレの優先順位が高い方にはいいと思います。

地下鉄の駅直結、建物内にショッピングフロアあり、ギャラリーありで、便利なところはすごいです。雑誌やバラエティ番組などで「歌舞伎を見なくても楽しめる!」とよく言われてるので「見ないの?!」と思ってます。

 

歌舞伎はミュージカル

と思うことがよくある。ただし歌う人と演じる人は別。お芝居が盛り上がったところで浄瑠璃が始まるあの感じ、好きだなあ。

けれども大問題があって、私の場合、台詞はなんとなく聞き取れても浄瑠璃の歌詞は分からないんですよね…。脚本を読んで少しずつでも勉強しよう。

 

次に、印象に残った演目のうちのいくつかについての感想です。注※イケメン大好きなミーハーが書いてるよ!

 

三月大歌舞伎『名君行状記』

あらすじ…学問に秀で、質素倹約の家風を確立し、名君と名高い池田光政。家臣の青地善左衛門は光政を父親代わりに育ってきたが、光政が名君の仮面の下に隠しているであろう本当の顔、本当の光政を見たくてたまらない。善左衛門は極刑に値する罪を犯したが、それは光政が寵愛する若侍である自分をどのように裁くのか、見届けるためであったーーー

え…。BのL…。光政役の中村梅玉さんの、変に凄んでいない自然の品格がとてもお役に合っていて、好きでした。

 

四月大歌舞伎『伊勢音頭恋寝刃』油屋・奥庭

あらすじ…失くしたらお家の一大事、な刀が失くなった!これはやばい!福岡貢が探すの手伝うよ!無事に刀を見つけた貢、受け渡しのために恋人が働いてる油屋に来た。油屋の仲居・万野は超悪女で、殺意がよぎるくらいに口が悪い。しかも万野は貢の名前で油屋の芸妓から借金をしていたことも判明。謝らない万野、もう別れると言い出す恋人、茶化す油屋の客たち。極めつけに万野が刀をすり替えたと気付いた貢は、ついに万野を手にかけ、妖刀に酔って正気を失い、桜の下で華やかな音頭を踊る者たちにまで斬りかかるーーー

「正気を失った二枚目が障子を破って室内に侵入」っていう歌舞伎の演出、最高なんだよなあ…。障子に男の人のシルエットが映る→障子バリバリバリー!!血まみれの腕ニョキー!!→血刀を持ったイケメンが這い込んでくる!!こ、ころされる!の流れ!!最高!

市川猿之助さんの万野のすれっからし感も本当に最高でした。他の人にはできないと思う。万野に追い詰められる貢の恥に震える表情と、妖刀に魅入られてからのどこか恍惚とした表情の対比も最高だった。貢役の松本幸四郎さん(公演当時は市川染五郎さん)はお芝居がうまくて踊りがうまくて二枚目でインタビューはとぼけてて、最高だな…。

最高しか言ってないな。

これ繰り返し見たいから是非テレビ放送を…と思っていたら、油屋の客が貢を「乞食」と罵ったのでアッ…と諦めました。

 

六月大歌舞伎『浮世風呂

あらすじ…お風呂屋さんの政吉は働き者で朝から仕事をがんばり、女のなめくじも政吉に惚れましたが塩をかけられました。

20分ちょっとの舞踊の演目なのであらすじというとこうなってしまうんですが…。市川猿之助さんの驚異的な身体能力で見せる軽快な踊り、見てるだけですっきりする素晴らしさでした。踊りの最中に床を踏み鳴らすターンという音さえ、他の人とは違うと感じる。

歌舞伎の演目の種類に「舞踊」があって、台詞もほとんどなく「踊り」を見るものなんですが、キャラ設定は必ずあって、俳優自体ではなくあくまでキャラが踊っている、というのが面白いです。2.5次元舞台の「第二部:ショータイム」に通じるものを感じる。

劇場設置のチラシでの英題が「fashionable bathhouse」だったのも印象深い。何それ。

 

七月大歌舞伎『駄右衛門花御所異聞』

堀越勸玄さんの出演など、ワイドショー的な話題性でとても注目されていた演目ですが、いざ見てみたら作品外の事情なんかどうでもよくなってしまうほど作品自体が面白かった。というか、俳優の家族というプライベートな要素まで取り込んで作品にしてしまっていた。ぶっ飛んでてクレイジーでガハハハハ…と笑いながら走り去ってしまうこの感じが、「傾く」なんだろうな。演劇って楽しいな~とつくづく思った作品でした。息つく暇もないほどめまぐるしく展開するストーリーで、あらすじをまとめることは不可能。

下手に海老蔵がいると思ったら上手から出てくる、みたいなことの連続。宙乗り、衣装早替え、瞬間移動、入れ替わり、切腹、首切り等々「なんなんや」と思うことが次々起こって、この「なんなんや」を「ケレン味」と言うことを最近知りました。

 

10月歌舞伎公演『通し狂言 霊験亀山鉾』

あらすじ…浪人(ニート武士)の藤田水右衛門は、剣術の手合わせで負けた腹いせに相手を闇討ちする。兄弟や家来が次々に仇討ちに現れるが、水右衛門は毒殺、謀殺など卑怯な手で返り討ちにし、女でも残忍に斬り捨てる。最後は水右衛門も討ち取られ、悪の華は散るのであったーーー

不思議だなあと思うのですが、歌舞伎ってたまにこういう「良いとこなしの悪者が主役」って作品があるみたいです。悪の美学もない、ただただ卑怯な奴。仁左衛門様の水右衛門もまじで良いところが顔しかないんだ……

仇討ちに来た相手と一戦交える前に毒を盛り、苦しむ相手に「卑怯な奴だ」って言い捨てる水右衛門めっちゃやばい…お前だよ…。

なんというか、一万円以上するチケットを買って劇場に来る文化的な紳士淑女の皆様が、勝負が決まった相手をなお斬り苛み、妊婦も構わず刺す水右衛門を、どういう気持ちで観ているのか不安になる体験でした。私は「顔以外サイテー!」のカタルシスを感じて観ていたよ。

 

うーん長々書いてしまいましたが、まだあれも面白かった、これも面白かった、と思い浮かぶことがあります。

まだ歌舞伎を観たことがなくて、興味あるなーと思っている方はすぐに観てほしい!歌舞伎が気になると思った時点で、楽しめる条件は揃っています。

*1:消えつつある用法ですが「かかる」には「上演される」の意味がある。古典芸能界隈の方は普通に使われる。私も使ってみたかったから使った!